目標・概要・短所

どのコンピュータを使っても同じ環境

UNIXで出会った環境をWindowsで

まだPCをネットワークで結ぼうとすると1台につきPC一台分ぐらいの出費を覚悟しなければならなかった時代に、UNIXのネットワークにふれる機会があった。Sun Microsystems のシステムでOSがsolarisに替わったばかりのものだったと記憶している。60台のクライアントが並んでユーザー名とパスワードでログインすればどのコンピュータの前に座っても同じ環境で作業が続けられるということにいたく感激した。これ以来この環境を追いかけることになった。

当時 Sun Microsystems のシステムは高価で導入は無理。このあとネットワーク接続機能が標準になった Windows95 がでてきたのでこれをクライアントに「どのコンピュータを使っても同じ環境」を実現するべく調査を開始。

実現にはさらにサーバーとして Linux + Samba との出会いが必要なのだが、これはまた別の話。

まずユーザープロファイルとは

これはあまり知られていないが、Windowsでは95の時代から壁紙やデスクトップのショートカット、最近つかったファイル、マイドキュメントの位置など、作業環境をコンピュータを使用する人(以後ユーザ)ごとに記憶しておくことができるようになっている。このデータをユーザープロファイルという。1台のコンピュータを一人で独占できる場合には気がつかないことだが、複数の人で使用した経験があれば、この機能の必要性がわかる。漢字変換のシステムやローマ字入力かカナ入力かも自分用の設定を残したいものだ。

Windows上で動く個々のソフトもこの機能を使うことができる。たとえば、Paint Shop Pro という画像処理のソフトでは最後に使用した筆の太さやインクの色などが記憶されている。ユーザープロファイルがあれば、前に使った人の筆の太さやインクの色などに影響されず、自分が最後に使用した環境で作業を始めることができる。最後に保存したフォルダが次の保存の時のデフォルトになるソフトも多く、これもユーザープロファイルがないと不便だ。

移動ユーザープロファイル

このユーザープロファイルをネットワーク内の他のコンピュータを使用するときにも有効にしようというのが移動ユーザープロファイルである。普通の授業では、生徒が使用するコンピュータは決まっているので、「移動」である必要はないのだが、機械の故障で別の機械を使用せざるを得なくなったときとか、放課後に実習の残りをしようとしたところたまたま同じ機械を使っている別のクラスの生徒がすでに使っていた場合、また、実習室が複数あって時間割の関係で同じ教室を使えない場合にありがたいものになる。

変えさせないという選択肢

対して、いっさい変えさせないという行き方もありうる。これも同様に固定のプロファイルを作ってしまえばよい。これだと一時的に変更できるが、変更は記録されずにログオン(起動)ごとに設定が元に戻るようになる。

生徒はこちらの思考になれているのかタスクバーなどを見えなくしてしまうと、Windowsを終了して戻そうとすることがある。ユーザープロファイルは間違った設定をきちんと再現する。初心者にとってはこれはつらいことかもしれない。

しかし、自由にできるというメリットは大きい。壁紙を変えるなどのことは教えなくても自然に広がる。これはよいことだと思う。

Windows9Xの移動プロファイルの仕組み

Windows9X

本校の現在のシステムはWindows95でテストをはじめ、Windows98で本格稼働開始、現在はWindowsMeでの運用となっている。したがってここで述べることはWindows9X系列での話である。Windows2000やXPでもだいたい似たようなものなのだが、経験が足りないのでまだ自信を持って述べることはできない。

拡張によりできあがった仕組み

Windowsはスタンドアロン(非ネットワーク環境)から発展したOSである。機能についてもこの歴史を引きずっている。まずユーザープロファイルの仕組みをつくった。個々のコンピュータでユーザー認証をし、プロファイルのデータも個々のコンピュータの中に保存する。

次にこれをネットワークに対応させる時に、個々のコンピュータ(ローカル)に保存してあるプロファイルデータをログオフの時にサーバーに転送しておき、次のログオンの時にサーバーからローカルに転送することにしたのである。

ここから考えれば移動プロファイルはもともとネットワークで使用することを想定して設計されていないと理解できる。このため、たくさんの欠点を抱える。

Windows方式の移動プロファイルの短所

ログオン時に負荷がかかる
ログオン時、ログオフ時に全部のプロファイルデータを更新するのでサーバーとネットワークに負荷がかかる。特に授業などで同時に起動したり、シャットダウンする時には不利である。
全部転送−効率的には不利
プロファイルデータはその日使うものも使わないものも全部転送する。効率的には不利である。更新があったファイルのチェックをしているので前回と同じ場所からのログオンならばそれほどの負荷ではないが、はじめての場所からだとかなり待たされることになる。
コンピュータにプロファイルデータが残る
あるユーザーがコンピュータを渡り歩いて使用した場合、使用したコンピュータのすべてにプロファイルデータを残すことになる。Windows200やXPならばユーザーごとにアクセス制限をかけられるが9Xでは誰でもアクセスできる。いたずらで消される場合には問題は起きないが、ファイルによってはセキュリティ上の問題がある。
設定によってはマイドキュメントデータが残る
ユーザープロファイルにマイドキュメントを含めると、(これは避けるべきだ)上に書いたような理由で、使用したコンピュータのすべてに自分の作ったファイルが保存されることになる。授業で使用する場合、前の生徒が作成した課題を次の生徒がコピーするといったことも可能になる。
(本校ではこれを避け、接続したネットワークドライブをマイドキュメントにしているSambaファイルサーバー参照)

Windows方式の移動プロファイルの長所

必要なファイルはログオン時にローカルにすべてコピーする。このためOSが立ち上がってしまえばネットワークやサーバーの性能が動作に影響しない。サーバーが不安定でも、ネットワークが混んでいてもとりあえずローカルなコンピュータは快適に使用できる。

UNIXの場合

nfsオートマウント

冒頭で紹介したUNIXでの環境はnfsオートマウントと呼ばれるもので、ログイン時にサーバー上にあるユーザーのホームディレクトリを、クライアント機のファイルシステムにマウントしてあたかもローカルなディレクトリであるかのように扱う方法である。Windowsでは接続されたネットワークドライブに相当する。もともとUNIXではホームディレクトリに各種ソフトのユーザーごとの設定ファイル(ユーザープロファイル)や、ユーザーが作成したファイルを置く。したがって、プロファイルもデータも区別無く同じ仕組みで移動プロファイルに相当するものが実現できることになる。

いつもファイルの実体はサーバー上に置いたままなので、使う時だけアクセスし、使わないファイルの転送は無い。また、ローカルのハードディスクにはいっさいデータを残さない。非常に単純明快でスマートな方法だと思う。

ネットワークが標準のUNIX

UNIXはもともとサーバーのあるネットワークに接続され多人数で使うことを前提に設計されている。だからネットワーク周りはとても洗練されている。Windowsの方が新しく設計されているのだが、仕様は複雑で理解しにくく頻繁に変更がある。企業戦略上、仕様が公開されないものがある。ただ多数派であるというだけで魅力的な部分がない。

Linuxクライアントに向けて

当時はじめて出会った Sun Microsystems は高価なシステムであったが、最近はLinuxやFreeBSDなどのPC-UNIXがたくさんあって、nfsを使える。PC-UNIX上でもwindowシステム(Windowsという意味でなくGUIのこと)が実用的に使えるようになってきたしブラウザやメール、オフィスソフトも充実してきている。近い将来、最初に感激した環境を自分で構築することができると思う。

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聖愛高等学校
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Last update: 2004-10-26